NEW RELEASE
ささやくような歌声が瑞々しい情景を描きだし、
心地よいギターの旋律が、新しいストーリーを語りはじめる。
シンガーソングライター佐立努(サタチツトム)によるソロアルバム 「ザ・ビギニング」。
アコースティックギターをはじめ、ピアノ、シンセ、パーカッションなどほぼすべての楽器の演奏/録音/アレンジ/ミックス/マスタリングまでをセルフプロデュースした、自然体でアコースティックな作品だが、ナチュラルであることが地に足のいついた存在感を放ち、パーソナルであることが瞬発的に深い共鳴を呼ぶ。シンプルであるがゆえに無限のひろがりをかんじさせる音楽が、緩やかに世界の風景を一新していく…。
フォークやブルースを下地に穏やかなまなざしで世界を切り取った、根源的で普遍的な楽曲全8曲を収録。
BIOGRAPHY
宮城県石巻市出身のシンガーソングライター。ブルース、フォークをルーツに日々目に映る自然の美しさを静かに歌う。現在はソロ活動と平行して、電子音楽家ChiheiHatakeyamaとの"ルイス・ナヌーク"、伊達佑典との"SeveralFolks"など様々なプロジェクトで活動を展開している。2005年にソロアルバム「凧の平地」(AirplaneLabel)、ルイス・ナヌークとして2010年「Place」(Flyrec.)、2012年「丘の上のロメロ」(Flyrec.)をリリース。
Liner Notes
2014年2月から3月にかけて、佐立努はひとりヨーロッパにいた。
一ヶ月半の間に彼が訪れた街はただ三つ。フランスはパリ、イタリアはアンコーナ、イギリスはロンドン。朝には立ち枯れの木々からこぼれる甘い陽射しを浴びつつ歩き、夜にはギターと夕闇を背負って「Open Mic」の文字を探す。オープン・マイクとは、その場で申し込めば誰でもステージに上がってパフォーマンスができるライブハウスの企画のこと。彼は楽器こそ持って旅立ったものの、いわゆるツアーと称した事前のブッキングをしないまま、言ってしまえば行き当たりばったりの覚悟でひとり出国ゲートをくぐったのである。
宿泊先のホステルを拠点にイベントを探し歩く日々。幸いどの街もオープン・マイクは盛んだったようで、演奏の機会は十分に得られたそうだ。地元の若者、国境を越えてきたミュージシャン、時にはラッパーなどとステージをシェアすることもあったようだが、反応は上々。同じようにヴェニューを渡り歩く音楽家たちと情報を交換し合ううちに、彼らと合同でコンサートを行うなどの運にも恵まれた。ホステルで同室になった強面の労働者たちの前でギターを弾き、打ち解けるシーンもあったという。「友だちの作り方が面白かった」「トイレが、水を十回くらい流さないと流れなくて」「つらかったです……。つらくて、楽しかった」。ほころぶ笑みを抑えきれない様子でそう振り返る彼を、歌そのままの人だなあと思いながら僕は眺めた。
本作『The Beginning』はそんな旅の半年以上前、2013年の夏に仕上げられたファーストアルバム『凧の平地』から数えると9年を経ての完成である。前作の頃は二十代。まだ出身地である宮城県石巻市を拠点にしており、野菜の配達や神社への散策といった日常生活と地続きに彼の音楽は生み出されていた。
その後は拠点を東京に移し、畠山地平とのユニットLuis Nanookとして2枚のアルバム『Luis 』『丘の上のロメロ』を発表。並行して旺盛なライヴ活動も行ってきた。そんな環境の変遷と、ほぼ全編をセルフプロデュースするまでに至った自身の音楽家としての成長、そして年齢とともに獲得した個人としての成熟が楽曲に力強く織り編み込まれている。
このアルバムは、一筋の物語として構成されていると佐立は話す。
始まりの朝を描いた一曲目"A Tower" に続き、15年前に作って以来ずっと温めて続けてきたという"The Rain" 。弛緩した時間の中で、主人公は雨が降るのを待っている。彼はたぶんひとりで、ちょうど希望と絶望が干渉し合う狭間に立ち止まっているようだ。"Hiyodori" の問いかけはおそらく、主人公が自分自身に向けて投げているものだろう。illuha/opitopeの伊達伯欣の弟、伊達佑典と共作した"Corn Sketch" では「夢っぽいシーンを描いている」。なるほどコーラスパートのユニゾンにはまるでミラージュの中に迷い込んだような幻惑を覚える。五曲目"Sweet Dreams" では、テニスコーツや惑星のかぞえ方なども手がけるエンジニア/サウンドアーティスト大城真の録音による独特なパース感の音像が、西の空から湿り気を帯びた風を届ける。それに呼応するように、六曲目"Sora" で主人公は空を見上げる。風が雨雲を運んできたようだ。そして"The Prayer"。神の鳥と呼ばれるセキレイの声に導かれ、待ちわびた雨が薄く薄く降り始める。物語の終点は"Ryoku-u"。新緑の季節に降り、木々の緑を清らかに洗う緑雨 = Ryoku-u。すべてのものが雨で繋がり、主人公のこころは潤い解かれ、また始まりが訪れる。『Th eBeginning』というアルバムタイトルの由来もここにある。
「終わりだけど始まり。同じものを探し続けるというテーマがずっと続く。それはファーストアルバムの時から同じで、これからも変わらず同じ作り方をすると思います」
このライナーノーツを書くにあたり、僕は彼からインタビューの時間をもらうことができた。停滞する梅雨前線の手前で中途半端に蒸した六月の夕方、通りの向こうから黒いシャツの袖を折った佐立が歩いてきた。正直に言えば、彼から作品についてのクリティカルな言葉を引き出すのはとても難しかった。静かに待つ時間の中で、時おり粒のようにひらめく一言ひとことを僕は慎重に胸ポケットにしまい、家に帰った。
「初めて歌詞に「愛」という言葉を使いました」。対話の中で脈絡もなくつぶやいた彼の言葉が忘れられなかった僕は、帰宅後あらためて歌詞の対訳を見返してみた。
愛はここに僕のそばにあって
"The Rain"
愛は流れる手から手へ
"The Prayer"
全ての境界は 私たちの愛の為の場所
"Ryoku-u"
物語が進むにつれて、主人公の傍にあった「愛」は手から手へと受け継がれ、やがて"私たち" の場を形づくるまでにひろがっていく。佐立の歌詞世界において「愛」という言葉は完全にシニフィエとして機能している。言葉を使うことが世界を規定すること、そしてそれがとても危ういということを佐立努は直感している。だからこそ、初めて使った「愛」の意味は深く大きい。そのことに気づいたとき、"The Rain" の一節がくっきりと浮かび上がってきた。
名前のないものを伝えるのは難しい
同じものを感じているのは知っているけれど
言葉が僕等を引き裂くなら
僕は言葉を捨てるだろう
インタビューを通じて彼は、この自ら立てた問いに真摯に向き合っていた。冒頭に書いたヨーロッパの思い出をまるで歌うように語る彼に感じた好ましさも、作品内容に触れる時の深々しい慎重さも、すべてこの歌詞に符合している。
佐立努は、言葉に誠実な人だと思う。音楽と同じくらい言葉を信じ、言葉を恐れ、大切にしている。プロットではなくストーリーを紡ぐために格闘している。どうかその内なる声を想像し、耳を澄ましてみてほしい。
文:安永哲郎(安永哲郎事務室)
Tsutomu Satachi "The Beginning" Release Party with ALIOTH
アーティストプロフィール
佐立努
宮城県石巻市出身のシンガーソングライター。ブルース、フォークをルーツに日々目に映る自然の美しさを静かに歌う。現在はソロ活動と平行して、電子音楽家 Chihei Hatakeyamaとの"Luis Nanook"、伊達佑典との"SeveralFolks"など様々なプロジェクトで活動を展開している。 2005年にソロアルバム「凧の平地」(Airplane Label)、Luis Nanookとして2010年『Place』(Flyrec.)、2012年 『丘の上のロメロ』(Flyrec.)をリリース。そして2014年9月、満を持しての2ndソロアルバム『The Beginning』(Flyrec.)をリリースした。
Tsuki No Wa
フミノスケを中心に結成された日本の音楽家集団。メンバーは、フミノスケ(vo, g / efuromio, ふみがしづか, 棗 ほか)、伊藤匠(sax / Ryusenkei-Body, Daitokai ほか)、守屋拓之(cb / アヤコレット, neuma, GHOST ほか)、庄司広光(modulation / pagtas, amephone's attc ほか)の4名。フォーク、ブルース、ジャズ、民族音楽などが一体となった幻想的な世界観によるサウンドが特徴。2000年の1stアルバム『NINTH ELEGY』リリース時に、99年よりデュオ"棗"としてともに活動していた庄司が正式にメンバーに加入。以降、2001年に『真昼顔』、2003年に『Moon Beams』と、計3枚のアルバムをリリース。
LIVE
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おんがくのじかん5周年記念 11日目
10/7(Tue) @三鷹 おんがくのじかん
18:30 open 19:00 start
料金:1500円+ドリンクオーダー
出演:彩, 竹川悟史, 影山朋子, 佐立努
予約&お問い合わせ:おんがくのじかん(http://ongakunojikan.com/)
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月夜旅楽団~西日本ツアー~
10/10(Fri) @大阪 上町荘
19:00 open 19:30 start
料金:前売2,500円
出演:circe + 佐立努, Mattia Coletti, nayuta
予約&お問い合わせ:月夜と少年(http://mumble-mumble.com/tsukiyo/)
10/11(Sat) @兵庫・元町 Bucato Cafe
18:30 open 19:00 start
料金:前売2,500円
出演:佐立努 + circe, Mattia Coletti, senoo ricky
予約&お問い合わせ:月夜と少年(http://mumble-mumble.com/tsukiyo/)
10/12(Sun) @岡山・宇野 純喫茶東山
17:00 open 18:00 start
料金:前売2,500円
出演:circe, Mattia Coletti, 佐立努
予約&お問い合わせ:月夜と少年(http://mumble-mumble.com/tsukiyo/)
10/13(Mon) @広島・尾道 Ryokomamaの家
15:00 open
料金:前売2,500円
出演:circe, Mattia Coletti, 佐立努
予約&お問い合わせ:月夜と少年(http://mumble-mumble.com/tsukiyo/)
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Mattia Coletti+佐立努 LIVE
10/14(Tue) @京都 yugue
19:30 open 20:00 start
料金:1,014円
出演:佐立努, Mattia Coletti
予約&お問い合わせ:yugue(京都府京都市左京区下鴨松原町4-5 TEL:075-723-4707)
10/17(Fri) @横浜 喫茶へそまがり
20:00 start
料金:2,000円
出演:佐立努, Mattia Coletti
予約&お問い合わせ:喫茶へそまがり(http://toshiokake.exblog.jp/20771051/)
10/18(Sat) @つくば 千年一日珈琲焙煎所
18:30 open 19:00 start
料金:1,800円
出演:佐立努, Mattia Coletti
予約&お問い合わせ:千年一日珈琲焙煎所(http://1001coffee.jugem.jp/)
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旅のおわり
10/19(Sun) @立川 gallery SEPTIMA
16:30 open 17:00 start
料金:2,000円 当日2,500円
出演:mangneng planet band set, コノ花, Mattia Coletti
予約&お問い合わせ:gallery SEPTIMA(http://galleryseptimablog.blogspot.jp/)
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『TJO!』
10/28(Tue) @渋谷 O-Nest
19:00 open 19:30 start
料金:3,500円
出演:タラ・ジェイン・オニール(from US), HELLL, アキツユコ, 佐立努+mangneng
イベント詳細&予約:http://trespassersmewed.blogspot.jp/