flyrec.com home about release movie sound order link contact
release
Masayasu Tzboguchi Trio "Radio - Acoustique"
坪口昌恭 INTERVIEW
坪口昌恭
坪口昌恭


大谷能生
大谷能生
大谷:Masayasu Tzboguchi Trioとして、このメンバーで活動し始めたのはいつ頃からですか?
坪口:そうね、どれぐらいになるかな…。3年ぐらいかな。去年と一昨年に小さいツアーをやって、で、その前の年くらいからぼちぼち、という感じで。
大谷:「アルフィー」で最初は始めたんでしたっけ?
坪口:いや、厳密には六本木ピット・イン(笑)。
大谷:六ピですか。今は亡き(笑)
坪口:そう。だから、ザヴィヌルバッハと平行して六ピで。ザヴィヌルと違ってアコースティックというコンセプトで。最初に藤井(信雄)さんを誘って始めて、ベースは不定で……。ベースぐらい普通のジャズの人もありかなと思って最初始めたんだけど。まぁ、やっぱりね、なかなかあんまり回転が良くなくて、なかなか次もやろうって気持ちになりづらかったりして。ただ(菊地)マチャーキが入ってから、まぁ思い切ってディレイかけたりとかし始めてから軌道に乗ったというか。
大谷:最初から(エフェクターなどを自分のセットに)つないでますからね、(菊地)雅晃さん。
坪口:そうね、それで俺もかけるようにしたりなんかして。そしたら普通に曲をやっても面白いなってことになって。
大谷:コンセプトとしてはスタンダードをやろうっていう感じだったんですか? 3人でスタンダードをやって、それにこう、エフェクトとかかけたりっていう。
坪口:そうそう。
大谷:最初のセッティングだとグランド(ピアノ)の上にディレイぐらいって感じとか。
坪口:そうね、最初はそんなもんだったね。だから最初、ホントにきっかけは、普段あんまりスタンダードとかやんないメンバー…藤井さんですらビバップとかあまりやらないで来た人だから。ここはそれぞれ新鮮だから普通にスタンダードとかやりたいねってなって。「Confirmation」(注1)やったりとか。そういうので始まった。だからこんなアルバムが出来るとは最初は思ってなくて。
大谷:そうですよね(笑)
坪口:このトリオではオリジナルっていうよりはスタンダードをやるっていう事でやってきたから。ただ、やっぱりスタンダードっていうのは、もう歴代の名演がいっぱいあるわけですよ。そのリスペクトやら何やら考えると、なかなかそういうスタンダードのアルバムって作れないよね。
大谷:ピアノ・トリオだとビル・エバンスにはじまり…、
坪口:キース・ジャレットもいれば、バド・パウエルもいれば…。いくらでもいるからね。だからそれに近づこうとして頑張ってピアノ・トリオのアコースティック・アルバムを作るのもいいんだけど。なかなか…そうもいかなくて(笑)。
大谷:それで、まず最初にやはりライブでちょこちょことやってみようと。
坪口:そう。ライブをとにかく定期的にやってこうっていうことでね。
大谷:その中で、実験というか、スタンダードをやっていく間に、この曲のここはディレイをこんな感じに深めにかけて、みたいなことがまとまってきたとか?
坪口:そうね。
大谷:最初って、何から機材を使いました?
坪口:最初なんだったかな? 最初からカオスパッドいってたかなぁ…コルグの別のディレイだったかもしれないけど。ほぼ最初からカオスパッドだね。
大谷:カオスパッド一台ですか?
坪口:そうね。ドラムにかけるのとピアノにかけるので2台。
大谷:ドラムの(エフェクトも)も坪口さんが?
坪口:そうそう。
大谷:音の返しってどうしてました?
坪口:いや、もうPAの方に任せて。生音…あの生の基本的なピアノの録り音+ディレイっていう感じで。一応別系統で。最近はフィルターとかリングをかけ始めたんだけど。まぁ、自分でミキサー持ってかないと、その辺はバランスが難しいからね。セットがまた大きくなってきちゃいそうなんで、ちょっと踏みとどまってるんだよね、あえて。まぁ、夢は(ライブ会場へ)電車通いっていうね、手ぶらで(笑)
大谷:手ぶらですからね、ピアノだと(笑)
坪口:そうもいかないんだけど。カオスパッドがホントに2個だけだったらいいんだけど、長いケーブルとか持ってくと結局ケースがいるからねー。
大谷:マイクの集音とか、最初から問題ありませんでした? ディレイの効き方とか。
坪口:なかったね、音の方は割と最初からうまくいったけど。演奏でもさ、ディレイがかかるだけで、やっぱりピアノの音数が減るし、手の動きが減って空間が増える訳ですよね。左手でエフェクターをいじったりもするので、要するに音数が単純に減る。弾く内容が減るっていうところがポイントで。こう、両手だとなんかちゃんと全部弾こうとしちゃうんだけど、片手で、何か足りない感じのままやってくのがね。すごく…あ、これかな、とか思いましたね。
大谷:そういった実験をスタンダードで始めた、と。バップの曲もやったりとかしてたんですか?
坪口:いやぁ。そこは良いポイントなんだけど、やっぱりバップはなかなか上手くいかないね。ビル・エヴァンスのモードっぽいやつとか、例えば「Time Remembered」とか「Very Early」とか、ハンコックの「Speak Like a Child」とか、そういうモーダルな曲だとすんなりいくんだけど、バップはなかなか上手くいかなくて。で、最近やっとトーナル・センター(注2)の音をディレイでループさせて、それでコードはチェンジしてるけど、こう下だったり上だったりでエフェクト音がカーンコーンカーンコーンって鳴ってるっていう、そういうやり方は見つけて。最初、このトリオは抑制の利いたアプローチをしようと心に誓っててさ、一回ガーンといっちゃうと大体ライブ中に音量を元に戻せないんだよね。これは藤井さんも言ってることなんだけど、例えば、ライブで一曲目に結構エネルギッシュなハイテンポなのをやっちゃうと、もう戻せない。だから最初、ホントに静かに始まったり、インプロから始まってスタンダードにもってくと上手くいくけど。その辺の曲順の問題もあったりして。ディレイとバップが相性が悪いっていうのは当然で、当然なんだけど、俺の中ではこのトリオではインプロとか一発物ということだけで終わりたくないっていうのがあって、ピアノ・トリオだったらやっぱドミナント・モーション(注3)でしょっていうね(笑)。やっぱドミナント・モーションをグループでバシッと決めた時の絶妙さっていうのはジャズの醍醐味の一番アカデミックな部分で。そこは外したくないという気持ちがありますね。
大谷:ははは(笑)でも、そういったコード進行プラス、エレクトロニクスによる空間の処理っていうのは殆ど誰もやっていないし、今まで相容れないものだったじゃないですか。特にエレクトロニクスといっても、MIDIじゃなくて完全にダイレクトのエフェクトで音をライブ処理して行くっていうことでは。MIDIとか打ち込みによるシミュレーションじゃなくて、演奏の現場でどんどんエフェクティブな要素をアドリブに取り入れてくってのは、やっぱりそれまでのピアノ・トリオと感覚が違うものだと思うのですが?
坪口:うんうん。あの今回リミックスを自分でもやって、もの凄く鍛えられたと思うんだけど、やっぱり生演奏に電気楽器を足すっていうのは、もう70年代からあることで、別にエレクトロニカでもなんでもないわけ。で、何でエレクトロニカなのかっていうと、音の素材はアコースティックであろうが何であろうが、PCにオーディオファイルで取り込んじゃえばすべて同列で、で、それを編集の技術でどうやって今までにない動きをさせるかっていう、まぁ一曲目とかもその顕著な例なんだけど、なんかエレクトロニックな音をただ足すとかそういうのではなく、曲作りの発想の部分で違いがあるっていうことですね。
大谷:オーディオファイルを自分で編集して、そっから曲を作るっていう作業は、紙の上にスコアを書いていくこととはまったく違う?
坪口:違うね。やっぱりスコアはメンバーに手際よく楽曲を伝達するためにあるわけで、それを演奏して、録音してってやって出来たものが、まぁ我が子みたいなもので。そのお化粧直しだったらいくらでもするんだけど、エレクトロニカというか、デジタルでの編集っていうのは、そうやって出来た我が子の目玉をくりぬいたりとか(笑)、そんな感じで。一回鼻をとってとか、腕をもぎ取って、それで腕だけ見せるとか、何度も腕を見せるとか(笑)
大谷:サイボーグにしちゃうみたいな(笑)
坪口:そうそう(笑)。今回のアルバムでも、一回は演奏にお化粧したくらいの感じで作ったものをFlyrec側に聞かせたんだけど、これぐらいじゃダメだってダメ出しされて。お化粧したくらいじゃ足りないって(笑)、目玉くり抜いたりしないとダメだって(笑)。
大谷:ちょっとリバーブかけたり、音足したくらいじゃダメ(笑)。確かに曲の構成自体が破壊・編集されてる楽曲が多かったかなーと。
坪口:まぁ、してない曲もあるんだけど。
大谷:後半の「Poly Rhythm Change」って曲は、割と構造自体は残ってて、あの感じは凄い繊細に出来ててよかったですね。ベースがずっとループになってて……。
坪口:うん。ループにして。
大谷:で、たまに生のフレーズが入ってきたりとか。で、あとドラムの音色が面白いですね。微妙に音質がフィルターとかで変わっていく感じが。曲の構成のつくり直しっていうのは、実はデジタルだと目玉引っこ抜いたりとかはいくらでも出来る。よく、演奏の一部だけを取り出して反復させて、ミニマルな感じにまとめたものとか聴くんですが、もっと演奏と編集との関係性が複雑だといいなーと思う曲も多いですね。
坪口:そうね、自分たちは演奏している身だから、ちょっと組替えられたぐらいでも驚く訳よ。おぉ、目玉だけくり抜かれてるよみたいな(笑)。だけど客観的には、お客さんは元の演奏知らないからね。だから元の演奏がどう生きてるかっていうのが分かる編集…というか、その辺のさじ加減が…。
大谷:そこら辺が面白いところですよね、そのさじ加減が微妙なところで。そこら辺が有機的に見えた方がジャズ的な聴き方の人には面白いかなっていう。
坪口:サイボーグっていっても、ターミネーターぐらいがいいよね。ターミネーターが怪我してて中身が見えてる、くらいが(笑)……パードン木村さんは(曲の構造に関しては)何にもしなかった。
大谷:パードンさんのトラックはストレートでしたね。
坪口:パードンさんはジャズミュージシャンを立てすぎてるのかもしれない(笑)
大谷:いわゆる、アーディオファイルでのリミックスっていうのは、masでやられたのが最初ですか?(注4)
坪口:masのリミックスの時は自分の演奏を足したようなかんじだね。まぁ、モジュラーシンセを使いたかったから、モジュラーのループを作ってっていう。
大谷:実際、オーディオファイルで組んでいくというやり方はあの辺りからですよね。モジュラーシンセの方が興味としては先だったんですか?
坪口:そう。Flyrecから「エレクトロニックなアルバムを出しませんか?」って言われて、で、最初はトリオっていうのは考えてなくて。モジュラーシンセの方に興味が向いてた頃だったから、そういうアルバムを出そうかといったら、「いや、ジャズっぽいのがいい」って言われて(笑)。「そうか」っつって(笑)で、ビバップとかドミナント・モーションとかって話は結局ここでまた崩れちゃうんだけど(笑)…インプロでやった(トリオの)ライブの音源をiPODで聴かせたら、「あ、これをもとにしましょう」ということになって、こんなんならいくらでも出来るよみたいな(笑)で、結局は、ちゃんと曲を作ったけどね。
大谷:最近の音楽の作曲の傾向としては、演奏を録音して、で、コアになるようなフレーズをループを聴きながら探して、で、ひとつづつパーツパーツで組んでいくっていう、リニアじゃない時間の中で作ることが多いですよね。生演奏での作業とこれは結構違ってて、最初からリミックスというか。その辺、そういった作業から出来る新しい曲の構造みたいなものを今回のアルバムでも色々実験されてると思うんですけど、やってみてこれは出来たなっていう感じの曲ありますか?
坪口:やっぱり一曲目のやつとかは、今まであそこまではやったことはなかったからね。で、前から、ザヴィヌルバッハのときから、一回アコーステック・ザヴィヌルバッハを作りたいなっていう、全部アコーステック楽器だけで、それこそハープとか、そういうオーケストラのクラシックの生演奏を切り刻んで、それをM(注5)で鳴らすっていう。Mでリズムを鳴らすだけじゃなくて、演奏自体を切ってMで鳴らすっていう発想で。そういうアイデアはあったんだけど。それでね、実際トライしたの。オラシオと一緒にアルバム作ったときとかも。生で演奏するとあまりにフュージョンぽくなっちゃうから、それを避ける為に全部刻んでサンプラーに入れてMで鳴らそうとしたけど、なかなか上手くいかないのね。それで今回も一曲目は一回刻んでMで制御したのね。けどやっぱりなかなか上手くいかない。
それでどうしたかっていうと、Mじゃなくて人力で(笑)。やっぱり歌心を持って、ランダム性と歌心を半々くらいの気持ちで演奏しました。プラグイン・ソフトのBatteryってやつでサンプルをアサインして。abelton Liveも今回初めてちゃんと使って、リアルタイムでいじって、いいところを抜き出して…というかんじで新しい事をいろいろ試してみた。結局バランスっていうか。んー、今回は、一番のポイントはアコースティックのピアノトリオにこだわってるっていう所が出発点で。
大谷:でも結構ギターとか足してたじゃないですか?
坪口:足してたね(笑) でもさ、シンセとか足してないじゃん。
大谷:でもギターが入ってくるとフュージョンぽいっていうか(笑)
坪口:ギターとかマリンバとかね(笑)でもやっぱり作ってくとザヴィヌルバッハもトリオも変わんないなっていうか。その何か…世界観とかは何作っても一緒だなとも思ったよ。
大谷:そうですね、つながってるものは確実にありますね。あと意外とリミキサーが全員坪口ワールドっていうか、全然違うものが出てきてないから面白かったなと思いました。ドラムの配置の仕方とか、もうちょっと変わったものがくるのかなと思ってたから、やっぱりピアノトリオのサウンドになっていると感じたんですが…そこらへんはどうだったんですか?
坪口:なるほどね。そういうのも性格から滲み出てるのか、物腰柔らかだけど実は頑固みたいなのあるじゃない? よく言われるけど(笑)
大谷:(笑)。多分リミキサーも想像力が割と同じ方向に働いたんですかね?
photo
坪口:でも、soraさんのとかビックリしたけどね。AOKI takamasaさんのも。あの曲20個以上コードがあったのに2個になっちゃってたからね。
大谷:そんなにあったんですか?
坪口:普通のバラードで小節数のすごい多いバラードだったのが、2個しか使ってなくて。うわっこんなに!と思ったけど、でも逆にピアノのメロディーに一音一音別のエフェクトがかかってて、しかも聴いたことのないような、こう、焦げ付いたような、珍しいエフェクトがかかってて、これはすごいなと思って、なんかライブでできないかなって今、モジュラーでランダムに一音ごとに違うエフェクトが出るような仕組みを開発してるんだけど。
大谷:どうしても、エフェクト聴かせるにはコードがじゃまになる時がありますからね。そのエフェクト感とモーダルな複雑なコード進行の曲がきれいに混ざるともっといいんでしょうけど。どうしてもエレクトロニカの大多数が、ミニマルで、変化が音色だけだったりとかして。構造自体はすごいシンプルで……なんで最近、どれも同じように聴こえてしまうんですよ。音色と雰囲気だけだとやっぱりちょっと…。たとえば昔のスウィングジャズあたりのアレンジを聴くとそうとういろんなサウンドが配置されてるじゃないですか、そういう所まで戻って考えた方がいいのかなって思います。
坪口:まぁ、でもコラボレーション出来たことはよかったよね。音色についてはプレイヤーには出来ないことってのが絶対あって。プレイヤーだとどうしてもそこを演奏力で表現してしまうから。それを楽器のプレイヤーじゃないあの感覚って言うか、ヤン・イェリネックだってそうだと思うけど、素材の選択とボリュームの強弱で、こう盛り上げたり下げたりっていうのは、あれは出来ないもんね。あんな風には出来ないなって。だからお互いリスペクトし合って、出来てるのが一番いいと思うんだけどね。
大谷:そういう形でコラボレーション出来るって一番いいですよね。でもあんまりそういう耳を持ってるプレイヤーって少ないってのが、正直未だにありますよね。10年前からあんまり変わってない気がします。楽器を演奏してる人は楽器演奏してるだけっていうのが多い。
坪口:そうだね。逆にsoraさんとか、今までのやり方と全然違うやり方で今回やれたっていう風にメールもらったんだけど、普段ループ主体でやってしまうところを、今回は元の音が即興で演奏したバラードだったから、そうはいかなかったらしくて、苦労したみたいだよ。でもあれは、ミックスが届いて初めて聴いたとき涙が出た。
大谷:そういうプレイヤーシップの音とテクノ系の耳とか時間や音色の感覚とかっていうのは、どんどんもっと混じっていけそうな可能性が坪口昌恭トリオにはありそうな感じがしますよね、とくに(菊地)雅晃さんとかは昔からずっとエレクトロニカなども通ってて、だからちょうどいいバランスなんじゃないかなと思うんですよね。そういったものをピアノ・トリオっていう、アコースティックでオーセンティックなフォームでやるっていうのがいいですよね。
坪口:そうね。いくらでもシンセとかローズにいつでもいけちゃうんだけど…
大谷:たとえば演奏の縛りをもっと厳しくしてみるとか、3音しか使えないとか。
坪口:でも、まだライブだとスタンダードやったりオリジナルやったりするから、そこまでコンセプチュアルにはまだなれてないよね。クリックを使うというアイデアもあるし。今回クリックを使って演奏してて結構上手くいってるのもあるんだよね。
大谷:ループが上手くいってる曲とか、そういう感じですよね。
坪口:そうそう。
大谷:クリック使ってなかったらルーピングとか大変だったでしょうね。
坪口:そうだね。2、3曲クリック使ってないんだよね。やっぱり4ビートっぽいアフタービートのものってクリックはなかなか使えなくて。だからdillさんとか苦労したと思うよ。クリックないやつだから(笑)。「OXDATION」っていう曲を俺がやったんだけど、最初Logicで一回曲に合わせて全部手でクリックを打って、それをもとに逆にテンポを揺らがせて…それで打ち込みドラムを鳴らして、一回それで作ったんだけど、ダメだしされたの(笑)
大谷:なんでダメだししたの?
Flyrec:いや、うちでやるんだったら生音と、編集やプロセシングなどのエレクトロニックな処理が、もっと根本から混ざったようなものを、坪口さんがやるっていうのが、面白いんじゃないかなというのが最初にありましたので。
大谷:なにかの上になにかが乗るとか、そういうことじゃなくて?
坪口:単に、出来た曲にローラースケート履かせたぐらいに聞こえたんじゃない?(一同笑)そうじゃなくて、もう体を全部ローラースケートにしてしまえ!みたいな事だよね。聴かせてみてそれがわかったから。俺も薄々感じてたわけよ。これはきっとローラースケート履いただけだろう…と。でもよく言ってくれたよね。あのー、俺もねー、どうかなぁと思いつつ聴かせたら案の定だったから。別に全く嫌な気はしないし、よく言ってくれたなっつーか。例えばこれが他のレーベルだったら「あー、いいっすー。オッケーです大丈夫です」って行っちゃう可能性がある。「坪口さんらしい」とか言われたりして(笑)。そこが一番勉強になりましたよ。
photo
大谷:今回思ってる以上に根っこから作り直してあるから、最初クレジットなしで聴いたんですけど、誰がどの曲をやってるか全然わからなかった。
坪口:おぉ、ほんと!?
大谷:坪口さんが半分やって、リミキサーが入ってる っていう話だけ聞いていて、最初は全然エディットされてないのも入ってるのかなぁと思ってたんですけど、最初から最後まで完全にもうファイル編集で作ってある曲だったので。しかも、リスニング的要素が高いというか、何回もリピートして聴けるというか、テクノ作品というのはそういう要素がないとつまらないと思うんですよ。音色の部分で聴かせるというか。
坪口:一方で、やはりさっきのドミナント・モーションて、ちょっと極端に言ったけど、そういう楽音で、要するに音符で現せるもの、そこで面白くする可能性っていうのはまだまだあると思うのね。例えば、アフロとかポリリズムにしてもそうだけど、言葉だけが出回ってるけど、ちゃんと理解されてないかんじがするんですよ。まあ、別にアカデミックになれと言ってるわけじゃないんですが…。
大谷:アコースティックなセットでもまだまだやれる事はたくさんあるなと。
坪口:NYとかで、よく若い子の演奏を聴く機会があるんだけど、そのドラミングの強弱の付け方がディレイっぽかったり、ビバップのフレーズやってるのに、ダブみたいになってたり、ドラムンベースを通過してるなっていう、すごいかっこいいやつがいるんですよ。まだまだ、生演奏上での方法論はあるなぁと。
大谷:実際、いい生演奏を聴く機会はとにかくすごい減って来ていますよね。作品はコンセプチュアルですが、でもライブでは盛り上がる方向でやる。ライブバンドとしてその辺がいいバランスになるといいと思うんですが。
坪口:そうね。抑制が効いているというのは、最初のコンセプトとしてはあるんだけど、やっぱりライブとなるとね、お客さんは盛り上がりたいというのがあると思うので。そのライブの醍醐味は出していきたいですね。一時期はひねくれて、極端にストイックにやったりしてたけど、そういうのも反省しています(笑)
大谷:隣接分野として、エレクトロニカは基本的にダンス・ミュージックの近くにある。で、一方違う側には音響派的なものがあって、そっち側に振るともう完全にシッティング・ミュージックというか、頭と耳で聴く音楽で。で、今それらがゆるやかにグラデーションで繋がって来ている感じがありますね。あとは個人の質、立ち位置ということになってくると思うんですが、坪口昌恭トリオはその辺がはっきりしているからいいと思うんですよ。基本的にはジャズなんだっていう。
坪口:そうですね
大谷:あまり音響的な実験という方向には流れていかないわけですよね
坪口:そうですね。やっぱり3人とも、スタンダード・チューンがうまく決まった時の快感っていうのをわかっちゃってるから。まぁ、いまだにうまくいかないんですが…。
大谷:難しいですよね、バップは。
坪口:まぁ僕たちは純バップじゃないからね。プロデュースみたいな話になっちゃうんだけど、本当のバップのプレイヤー達を集めて録音して、それで"Radio-Acoustique"みたいにできるかな(笑)
大谷:ええ…とですね、難しいと思います(笑)。
坪口:フランスのニコラス・ルパ(注6)っていう人がいるんですが、ビリー・ホリデイとかスウィング時代の音を使って、うまく再構築している人がいるんだけど。
大谷:こないだ試聴で聴きました。でもあれぐらいじゃダメだと思うんですよね。古い音色の雰囲気だけで。システム自体はテクノですからね。まーそれはそれでいいんですけど。
坪口:フランジャー(注7)もそれっぽい事をやってましたよね。
大谷:あれは新しく演奏したのを全部いじって、凝った事をやってましたけど。スウィングジャズ・ファンとしては、まだ満足できない部分はありますが…。それより、坪口さんのトリオの、ビル・エヴァンス以降のモード的なサウンドを今回の作品のように構築しなおす方が、ハードルが高いと思います。まだ、次があるなぁという気もします。だいたい、演奏できる人でこういう事やる人って他にいませんからね(笑)。若いピアニストでそういう人出てくるのかな? 誰か知ってます?
坪口:いやぁ…、自分の弟子でうまい子はいるけど、機材は…音痴だよね。まぁビバップ上手なピアニストになってくれと、親心で思いますけど。すぐ僕なんかよりうまくなるからそっちはそっちでがんばってよと、思ってますけど。そういう子達に、じゃあM使ってみたらとか、切り刻んでみろとかは言う気にならないですよ。もう普通にがんばれよとかしか言えないよね。
大谷:いやでも(エレクトロニックな編集を)やらせた方がいいんじゃないですか?むしろそっちの方が需要ありますよ。
坪口:そうかな、でもそういう感覚が(若い子に)現れると嬉しいけどね。
大谷:コード進行をちゃんと知ってて、エレクトロニックミュージックもやるっていう人はあまりいないですからね。
坪口:尚美という大学でずっと教えているんだけど、'90年代はコンピュータ・ミュージックの先生だったわけ、アレンジとか、音楽理論とか基本的な事も教えていたけど、それ以外はMacを使って、打ち込みの授業をやっていたんですよ、それはそんなにアヴァンギャルドな事ではなくて、それこそ交響曲とかドナ・リーとか打ち込ませたり、スウィングはね、3連だとは限らないんだ…とか(笑)
大谷:ちょっとクオンタイズが前に…みたいな(笑)
坪口:そうそう、そういうことをやって、で、その間は新宿のPIT INNでずっと自分のバンドでやって、月に1〜2回だけど。とにかくそっちでは、まぁ「オリジナルでピアノを弾くんだ」っていうのが自分の基本的な、一番気合いの入った活動としてあった。で、大学ではコンピュータ・ミュージックを教えてたんだけど、2000年以降に大学が短大だったのが四年制になって、それで僕はコンピュータ・ミュージックの流れで、「音楽メディアコース」を担当する予定だったんだけど、急遽ジャズ科(ジャズ&ポップスコース)が出来ることになった。そしたら、そっちは他に若い先生がいないから、坪口で、という事になって、そりゃもちろんジャズやらせてもらえるのは嬉しいんですけど、どうなんですか、僕はオリジナルばっかりやってましたし、みたいな。あんまりスタンダードとか覚えてないなーみたいな(笑)
大谷:えーっと「Song is You」ってどんな曲だったっけ?みたいな(笑)
坪口:そうそう。だから先生になったんで、もう一回あらためてスタンダードに取り組むぐらいのつもりで。まぁ、ビバップは高校時代から聴いてましたけど……そう、で、それとほぼ同時期にDCPRGとかザヴィヌルバッハが立ち上がって、現場でコンピューター使ったり、エレクトロニクスを使うというのが打ち出されたんですよ。一方で学校ではスタンダードなアコースティックジャズを教える事になって、要するに、(アーティストとしての活動と講師としての活動が)逆転してきていて……。これは記事に書くとあれかもしれないけど、大学でスタンダードを教えているんだからピアノトリオぐらいやろうよ っていうね(笑)。だってDCPRGとザヴィヌルバッハと即興のセッションしかやってないんじゃさ、許せない訳よ、自分として。先生なのに。
大谷:生徒が観に来た時に?
坪口:そう。生徒が観に来た時に、学校とあまりに違うじゃないか って(笑)。
大谷:あれ、ボコーダー? アレ? なんかピコピコ言ってましたよー って(笑)。
坪口:ピコピコ言ってたけど、学校で教えてた「All the Things You Are」はやらないんですかー? とか(笑)。それじゃマズイと思って。最初は藤井さんとやろうと思ったのね。とにかく。DCPRGの時のドラムソロとかさ、あれほんとに鳥肌もんで、この人と是非やりたいと思ってさ。DCPRGのリハん時とかにジャズのフレーズをこう、リフとか弾くとピッと合わせてくるわけよ。それがもう最高で、「気持ち良過ぎる…」と思って。「(坪)やりませんか?」って言ったら「(藤)やろうよ」ってね。だからこのトリオはDCPRGのおかげでもあるし、学校での立場というものも実際はある(笑)。
大谷:そういう事で言うと、やっぱりスタンダードだけでこういった雰囲気の、編集したアルバムが今度は聴きたいですね。曲のコード進行から逆にエレクトロニクスでの処理を考えるぐらいの。
坪口:そうね、それぐらいの発想でねー。
大谷:この転調はエレクトロニクスでこう処理するとカッコいいとか。
坪口:そこが出来たら凄いよね。もうほんとに自分の目標で言っちゃうと、どういうアルバムをつくるとかいう事もひとつの目標かもしれないけど、兎に角、どんな所に行ってスタンダードを演奏してもそういう(自分なりの)アプローチが出来るようになりたい。
大谷:スタンダードをガッチリ、自分なりのやり方で。
坪口:そう、自分なりのやり方で。それが死ぬまでにはなんとか掴みたいと思うんだけど。

注1:Confirmation:チャーリー・パーカーの「…」に収録されている曲。ジャズのスタンダード
注2:トーナルセンター:中心音
注3:ドミナント・モーション:ドミナントセブンス・コードがトニック・コードに進行することを「ドミナント・モーション」という。ドミナント・モーションによって、調性が決定される
注4:坪口氏はFlyrecからのmasのセカンド・アルバム「steppers+」にて、masのオリジナル楽曲を東京ザヴィヌルバッハ名義でリミックスしている
注5:M(エム):MAX/MSPなどの開発にも携わったプログラマーDavid Zicarelliによって開発されたアルゴリズミック・コンポジション・ツール
注6:NICOLAS REPAC "SWING-SWING" www.noformat.net
注7:FLANGER Atom HeartとBurnt Friedmanのユニット。 最新作は"Spirituals"


[P] t [C] 2003-2004 Flyrec All Rights Reserved.