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大谷:Masayasu Tzboguchi Trioとして、このメンバーで活動し始めたのはいつ頃からですか? |
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坪口:そうね、どれぐらいになるかな…。3年ぐらいかな。去年と一昨年に小さいツアーをやって、で、その前の年くらいからぼちぼち、という感じで。 |
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坪口:そう。だから、ザヴィヌルバッハと平行して六ピで。ザヴィヌルと違ってアコースティックというコンセプトで。最初に藤井(信雄)さんを誘って始めて、ベースは不定で……。ベースぐらい普通のジャズの人もありかなと思って最初始めたんだけど。まぁ、やっぱりね、なかなかあんまり回転が良くなくて、なかなか次もやろうって気持ちになりづらかったりして。ただ(菊地)マチャーキが入ってから、まぁ思い切ってディレイかけたりとかし始めてから軌道に乗ったというか。 |
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大谷:最初から(エフェクターなどを自分のセットに)つないでますからね、(菊地)雅晃さん。 |
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坪口:そうね、それで俺もかけるようにしたりなんかして。そしたら普通に曲をやっても面白いなってことになって。 |
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大谷:コンセプトとしてはスタンダードをやろうっていう感じだったんですか? 3人でスタンダードをやって、それにこう、エフェクトとかかけたりっていう。 |
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大谷:最初のセッティングだとグランド(ピアノ)の上にディレイぐらいって感じとか。 |
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坪口:そうね、最初はそんなもんだったね。だから最初、ホントにきっかけは、普段あんまりスタンダードとかやんないメンバー…藤井さんですらビバップとかあまりやらないで来た人だから。ここはそれぞれ新鮮だから普通にスタンダードとかやりたいねってなって。「Confirmation」(注1)やったりとか。そういうので始まった。だからこんなアルバムが出来るとは最初は思ってなくて。 |
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坪口:このトリオではオリジナルっていうよりはスタンダードをやるっていう事でやってきたから。ただ、やっぱりスタンダードっていうのは、もう歴代の名演がいっぱいあるわけですよ。そのリスペクトやら何やら考えると、なかなかそういうスタンダードのアルバムって作れないよね。 |
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大谷:ピアノ・トリオだとビル・エバンスにはじまり…、 |
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坪口:キース・ジャレットもいれば、バド・パウエルもいれば…。いくらでもいるからね。だからそれに近づこうとして頑張ってピアノ・トリオのアコースティック・アルバムを作るのもいいんだけど。なかなか…そうもいかなくて(笑)。 |
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大谷:それで、まず最初にやはりライブでちょこちょことやってみようと。 |
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坪口:そう。ライブをとにかく定期的にやってこうっていうことでね。 |
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大谷:その中で、実験というか、スタンダードをやっていく間に、この曲のここはディレイをこんな感じに深めにかけて、みたいなことがまとまってきたとか? |
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坪口:最初なんだったかな? 最初からカオスパッドいってたかなぁ…コルグの別のディレイだったかもしれないけど。ほぼ最初からカオスパッドだね。 |
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坪口:そうね。ドラムにかけるのとピアノにかけるので2台。 |
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坪口:いや、もうPAの方に任せて。生音…あの生の基本的なピアノの録り音+ディレイっていう感じで。一応別系統で。最近はフィルターとかリングをかけ始めたんだけど。まぁ、自分でミキサー持ってかないと、その辺はバランスが難しいからね。セットがまた大きくなってきちゃいそうなんで、ちょっと踏みとどまってるんだよね、あえて。まぁ、夢は(ライブ会場へ)電車通いっていうね、手ぶらで(笑) |
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坪口:そうもいかないんだけど。カオスパッドがホントに2個だけだったらいいんだけど、長いケーブルとか持ってくと結局ケースがいるからねー。 |
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大谷:マイクの集音とか、最初から問題ありませんでした? ディレイの効き方とか。 |
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坪口:なかったね、音の方は割と最初からうまくいったけど。演奏でもさ、ディレイがかかるだけで、やっぱりピアノの音数が減るし、手の動きが減って空間が増える訳ですよね。左手でエフェクターをいじったりもするので、要するに音数が単純に減る。弾く内容が減るっていうところがポイントで。こう、両手だとなんかちゃんと全部弾こうとしちゃうんだけど、片手で、何か足りない感じのままやってくのがね。すごく…あ、これかな、とか思いましたね。 |
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大谷:そういった実験をスタンダードで始めた、と。バップの曲もやったりとかしてたんですか? |
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坪口:いやぁ。そこは良いポイントなんだけど、やっぱりバップはなかなか上手くいかないね。ビル・エヴァンスのモードっぽいやつとか、例えば「Time Remembered」とか「Very Early」とか、ハンコックの「Speak Like a Child」とか、そういうモーダルな曲だとすんなりいくんだけど、バップはなかなか上手くいかなくて。で、最近やっとトーナル・センター(注2)の音をディレイでループさせて、それでコードはチェンジしてるけど、こう下だったり上だったりでエフェクト音がカーンコーンカーンコーンって鳴ってるっていう、そういうやり方は見つけて。最初、このトリオは抑制の利いたアプローチをしようと心に誓っててさ、一回ガーンといっちゃうと大体ライブ中に音量を元に戻せないんだよね。これは藤井さんも言ってることなんだけど、例えば、ライブで一曲目に結構エネルギッシュなハイテンポなのをやっちゃうと、もう戻せない。だから最初、ホントに静かに始まったり、インプロから始まってスタンダードにもってくと上手くいくけど。その辺の曲順の問題もあったりして。ディレイとバップが相性が悪いっていうのは当然で、当然なんだけど、俺の中ではこのトリオではインプロとか一発物ということだけで終わりたくないっていうのがあって、ピアノ・トリオだったらやっぱドミナント・モーション(注3)でしょっていうね(笑)。やっぱドミナント・モーションをグループでバシッと決めた時の絶妙さっていうのはジャズの醍醐味の一番アカデミックな部分で。そこは外したくないという気持ちがありますね。 |
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大谷:ははは(笑)でも、そういったコード進行プラス、エレクトロニクスによる空間の処理っていうのは殆ど誰もやっていないし、今まで相容れないものだったじゃないですか。特にエレクトロニクスといっても、MIDIじゃなくて完全にダイレクトのエフェクトで音をライブ処理して行くっていうことでは。MIDIとか打ち込みによるシミュレーションじゃなくて、演奏の現場でどんどんエフェクティブな要素をアドリブに取り入れてくってのは、やっぱりそれまでのピアノ・トリオと感覚が違うものだと思うのですが? |
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坪口:うんうん。あの今回リミックスを自分でもやって、もの凄く鍛えられたと思うんだけど、やっぱり生演奏に電気楽器を足すっていうのは、もう70年代からあることで、別にエレクトロニカでもなんでもないわけ。で、何でエレクトロニカなのかっていうと、音の素材はアコースティックであろうが何であろうが、PCにオーディオファイルで取り込んじゃえばすべて同列で、で、それを編集の技術でどうやって今までにない動きをさせるかっていう、まぁ一曲目とかもその顕著な例なんだけど、なんかエレクトロニックな音をただ足すとかそういうのではなく、曲作りの発想の部分で違いがあるっていうことですね。 |
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大谷:オーディオファイルを自分で編集して、そっから曲を作るっていう作業は、紙の上にスコアを書いていくこととはまったく違う? |
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坪口:違うね。やっぱりスコアはメンバーに手際よく楽曲を伝達するためにあるわけで、それを演奏して、録音してってやって出来たものが、まぁ我が子みたいなもので。そのお化粧直しだったらいくらでもするんだけど、エレクトロニカというか、デジタルでの編集っていうのは、そうやって出来た我が子の目玉をくりぬいたりとか(笑)、そんな感じで。一回鼻をとってとか、腕をもぎ取って、それで腕だけ見せるとか、何度も腕を見せるとか(笑) |
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坪口:そうそう(笑)。今回のアルバムでも、一回は演奏にお化粧したくらいの感じで作ったものをFlyrec側に聞かせたんだけど、これぐらいじゃダメだってダメ出しされて。お化粧したくらいじゃ足りないって(笑)、目玉くり抜いたりしないとダメだって(笑)。 |
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大谷:ちょっとリバーブかけたり、音足したくらいじゃダメ(笑)。確かに曲の構成自体が破壊・編集されてる楽曲が多かったかなーと。 |
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大谷:後半の「Poly Rhythm Change」って曲は、割と構造自体は残ってて、あの感じは凄い繊細に出来ててよかったですね。ベースがずっとループになってて……。 |
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大谷:で、たまに生のフレーズが入ってきたりとか。で、あとドラムの音色が面白いですね。微妙に音質がフィルターとかで変わっていく感じが。曲の構成のつくり直しっていうのは、実はデジタルだと目玉引っこ抜いたりとかはいくらでも出来る。よく、演奏の一部だけを取り出して反復させて、ミニマルな感じにまとめたものとか聴くんですが、もっと演奏と編集との関係性が複雑だといいなーと思う曲も多いですね。 |
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坪口:そうね、自分たちは演奏している身だから、ちょっと組替えられたぐらいでも驚く訳よ。おぉ、目玉だけくり抜かれてるよみたいな(笑)。だけど客観的には、お客さんは元の演奏知らないからね。だから元の演奏がどう生きてるかっていうのが分かる編集…というか、その辺のさじ加減が…。 |
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大谷:そこら辺が面白いところですよね、そのさじ加減が微妙なところで。そこら辺が有機的に見えた方がジャズ的な聴き方の人には面白いかなっていう。 |
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坪口:サイボーグっていっても、ターミネーターぐらいがいいよね。ターミネーターが怪我してて中身が見えてる、くらいが(笑)……パードン木村さんは(曲の構造に関しては)何にもしなかった。 |
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大谷:パードンさんのトラックはストレートでしたね。 |
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坪口:パードンさんはジャズミュージシャンを立てすぎてるのかもしれない(笑) |
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大谷:いわゆる、アーディオファイルでのリミックスっていうのは、masでやられたのが最初ですか?(注4) |
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坪口:masのリミックスの時は自分の演奏を足したようなかんじだね。まぁ、モジュラーシンセを使いたかったから、モジュラーのループを作ってっていう。 |
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大谷:実際、オーディオファイルで組んでいくというやり方はあの辺りからですよね。モジュラーシンセの方が興味としては先だったんですか? |
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坪口:そう。Flyrecから「エレクトロニックなアルバムを出しませんか?」って言われて、で、最初はトリオっていうのは考えてなくて。モジュラーシンセの方に興味が向いてた頃だったから、そういうアルバムを出そうかといったら、「いや、ジャズっぽいのがいい」って言われて(笑)。「そうか」っつって(笑)で、ビバップとかドミナント・モーションとかって話は結局ここでまた崩れちゃうんだけど(笑)…インプロでやった(トリオの)ライブの音源をiPODで聴かせたら、「あ、これをもとにしましょう」ということになって、こんなんならいくらでも出来るよみたいな(笑)で、結局は、ちゃんと曲を作ったけどね。 |
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大谷:最近の音楽の作曲の傾向としては、演奏を録音して、で、コアになるようなフレーズをループを聴きながら探して、で、ひとつづつパーツパーツで組んでいくっていう、リニアじゃない時間の中で作ることが多いですよね。生演奏での作業とこれは結構違ってて、最初からリミックスというか。その辺、そういった作業から出来る新しい曲の構造みたいなものを今回のアルバムでも色々実験されてると思うんですけど、やってみてこれは出来たなっていう感じの曲ありますか? |
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坪口:やっぱり一曲目のやつとかは、今まであそこまではやったことはなかったからね。で、前から、ザヴィヌルバッハのときから、一回アコーステック・ザヴィヌルバッハを作りたいなっていう、全部アコーステック楽器だけで、それこそハープとか、そういうオーケストラのクラシックの生演奏を切り刻んで、それをM(注5)で鳴らすっていう。Mでリズムを鳴らすだけじゃなくて、演奏自体を切ってMで鳴らすっていう発想で。そういうアイデアはあったんだけど。それでね、実際トライしたの。オラシオと一緒にアルバム作ったときとかも。生で演奏するとあまりにフュージョンぽくなっちゃうから、それを避ける為に全部刻んでサンプラーに入れてMで鳴らそうとしたけど、なかなか上手くいかないのね。それで今回も一曲目は一回刻んでMで制御したのね。けどやっぱりなかなか上手くいかない。
それでどうしたかっていうと、Mじゃなくて人力で(笑)。やっぱり歌心を持って、ランダム性と歌心を半々くらいの気持ちで演奏しました。プラグイン・ソフトのBatteryってやつでサンプルをアサインして。abelton Liveも今回初めてちゃんと使って、リアルタイムでいじって、いいところを抜き出して…というかんじで新しい事をいろいろ試してみた。結局バランスっていうか。んー、今回は、一番のポイントはアコースティックのピアノトリオにこだわってるっていう所が出発点で。 |
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坪口:足してたね(笑) でもさ、シンセとか足してないじゃん。 |
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大谷:でもギターが入ってくるとフュージョンぽいっていうか(笑) |
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坪口:ギターとかマリンバとかね(笑)でもやっぱり作ってくとザヴィヌルバッハもトリオも変わんないなっていうか。その何か…世界観とかは何作っても一緒だなとも思ったよ。 |
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大谷:そうですね、つながってるものは確実にありますね。あと意外とリミキサーが全員坪口ワールドっていうか、全然違うものが出てきてないから面白かったなと思いました。ドラムの配置の仕方とか、もうちょっと変わったものがくるのかなと思ってたから、やっぱりピアノトリオのサウンドになっていると感じたんですが…そこらへんはどうだったんですか? |
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坪口:なるほどね。そういうのも性格から滲み出てるのか、物腰柔らかだけど実は頑固みたいなのあるじゃない? よく言われるけど(笑) |
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大谷:(笑)。多分リミキサーも想像力が割と同じ方向に働いたんですかね? |
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